芥川賞受賞の話題作『推し、燃ゆ』のあらすじをこれから紹介していきますよ。
『推し、燃ゆ』は宇佐見りんさんの長編小説で、2020年に発表されてから大きな話題を呼び、第164回芥川龍之介賞を受賞した注目作品。
読書感想文を書く予定の皆さんに役立つよう、短いあらすじから詳しいあらすじまで、さらに読書感想文のポイントや例文まで用意しましたので、ぜひ参考にしてくださいね。
年間100冊以上の本を読む読書好きの私におまかせください!
『推し、燃ゆ』の短くて簡単なあらすじ(ネタバレなし)
『推し、燃ゆ』の中間の長さのあらすじ
『推し、燃ゆ』の詳しいあらすじ
「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」という衝撃的な一文から物語は始まる。主人公のあかりは、男女混合アイドルグループ「まざま座」のメンバー上野真幸を熱狂的に応援する高校生。学校では劣等生、家族からは見放され、バイト先でも無能扱いされるあかりだが、推し活動に関しては誰にも負けない情熱と努力を持っていた。真幸の発言を記録したノートは20冊を超え、ほぼ毎日ブログ記事を投稿する。
しかし、推していた真幸がファンとのトラブルで殴打事件を起こし大炎上。支持率投票で最下位に転落する。それと呼応するように、あかりも留年が決まり高校を中退。両親から一人暮らしを命じられ家を追い出される。さらに追い打ちをかけるように「まざま座」の解散と真幸の芸能界引退が報じられる。
ラストライブの後、あかりは衝動的に真幸の住居へ向かう。そこで見たショートボブの女性が洗濯物を干す何気ない日常の光景に、あかりは自分のこれまでの推し活動の意味を考え直す。そして、これからの自分の生き方について新たな決意をするのだった。
『推し、燃ゆ』の作品情報
『推し、燃ゆ』の基本的な作品情報を一覧にまとめました。
作者 | 宇佐見りん |
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出版年 | 2020年 |
出版社 | 河出書房新社 |
受賞歴 | 第164回芥川龍之介賞受賞、2023年本屋大賞9位 |
ジャンル | 現代文学、青春小説 |
主な舞台 | 現代の日本 |
時代背景 | SNS時代の現代 |
主なテーマ | アイドル文化、自己アイデンティティ、若者の孤独 |
物語の特徴 | 現代の「推し」文化を通じた成長物語 |
対象年齢 | 10代後半〜30代が中心、幅広い年齢層にも |
『推し、燃ゆ』の主要登場人物とその簡単な説明
『推し、燃ゆ』の登場人物は多くありませんが、それぞれが物語において重要な役割を果たしています。
以下の表で主な登場人物を紹介しますね。
人物名 | キャラクター紹介 |
---|---|
あかり | 主人公。高校生。「まざま座」の上野真幸の熱狂的なファン。学業に興味がなく留年。 |
上野 真幸 | 男女混合アイドルグループ「まざま座」のメンバー。あかりの「推し」。ファンを殴って炎上する。 |
成美 | あかりの学校での友達。あかりとは対照的に学業優秀。 |
ひかり | あかりの姉。詳しい描写は少ない。 |
母 | あかりの母親。留年したあかりに一人暮らしを命じる。 |
父 | あかりの父親。海外に単身赴任中。 |
祖母 | あかりの母方の祖母。父親の単身赴任の原因となった人物。 |
これらの登場人物を通して、「推し」文化や若者のアイデンティティの問題が深く掘り下げられていきます。
『推し、燃ゆ』の文字数と読むのにかかる時間(読了時間)
『推し、燃ゆ』はどれくらいの長さで、読むのにどのくらい時間がかかるのか気になりますよね。
以下の表で目安をまとめてみました。
推定文字数 | 約76,800文字(128ページ/単行本) |
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読了時間の目安 | 約2時間30分〜3時間 |
1日1時間読んだ場合 | 3日程度で読了可能 |
読みやすさ | 現代的な文体で読みやすい |
比較的コンパクトな長さの小説なので、週末などのまとまった時間があれば一気に読み切ることも可能ですよ。
また、文章も現代的で読みやすいため、読書が苦手な方でも取り組みやすい作品だと思います。
『推し、燃ゆ』の読書感想文を書くうえで外せない3つの重要ポイント
読書感想文を書く際には、作品の核心をとらえることが大切です。
『推し、燃ゆ』で押さえておきたい重要ポイントを3つ紹介します。
- 衝撃的な書き出しと「推し」文化の描写
- 主人公あかりの特異性と成長
- 「推し」という概念が持つ意味
これらのポイントをしっかり押さえて、感想文に取り入れてみましょう。
衝撃的な書き出しと「推し」文化の描写
『推し、燃ゆ』は「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。」という衝撃的な一文から始まります。
この唐突で簡潔な書き出しは、SNSでの炎上を連想させ、現代的なテーマを予感させる効果があります。
また、作品全体を通して描かれる「推し」文化は、現代の若者文化を象徴しています。
あかりが真幸のためにノートを20冊も埋め尽くし、毎日ブログを更新する姿は、現代のファン文化の熱量を表現しています。
感想文では、この「推し」文化の描写が持つ現代的な意味について考察してみるといいでしょう。
主人公あかりの特異性と成長
主人公のあかりは、学業には興味を示さず劣等生ですが、「推し」に関しては異常なほどの集中力と努力を発揮します。
この特徴は、発達障害を示唆しているとも読み取れます。
あかりが「推し」を通じて生きる力を見出し、最終的に自分なりの生き方を模索していく過程は、現代の若者の生き方を象徴しています。
感想文では、あかりのキャラクター性や成長過程について触れると、作品理解の深さを示すことができるでしょう。
「推し」という概念が持つ意味
本作では「推し」を単なる趣味以上の、ある種の信仰や生きる糧として描いています。
あかり自身が「推しは私の背骨だ」と表現するように、推しの存在が彼女のアイデンティティを支える重要な柱となっています。
物語の中で、あかりが「推し」との適切な距離感を模索し、最終的に「推し」の人間性に直面する展開は、現代の若者のアイデンティティ形成や価値観の変容を考察する上で重要です。
感想文では、「推し」という概念がどのように現代社会と結びついているか、また個人のアイデンティティにどう影響するかについて掘り下げると良いでしょう。
※作者が『推し、燃ゆ』で伝えたいことは、以下の記事で考察しています。

『推し、燃ゆ』の読書感想文の例(原稿用紙3枚強/約1400文字)
最初の一文「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。」で、私は一気に物語の世界に引き込まれた。この短い言葉の中に、現代のSNS社会における炎上の恐ろしさと、主人公のあかりが直面する問題の本質が凝縮されていると感じた。
『推し、燃ゆ』は、アイドルグループ「まざま座」のメンバー上野真幸を熱狂的に応援する高校生あかりの物語だ。私自身、特定のアイドルやアーティストを「推し」として応援した経験はないが、何かに熱中する気持ちは理解できる。だが、あかりの「推し活」の情熱は尋常ではない。推しの発言を記録したノートは20冊を超え、ほぼ毎日ブログを更新する。学校では劣等生、家族からは見放され、バイト先でも無能扱いされる彼女だが、推し活動に関しては誰にも負けない努力を持っている。
この対比が、現代の若者の生きづらさを象徴しているように思えた。与えられた「正しい道」では評価されないが、自分の情熱を注げるものには異常なほどの集中力を発揮するあかりの姿は、多くの若者の姿と重なる。社会の「普通」の枠に収まらない人間の生き方を、作者は肯定的に描いているのだろうか。
物語の中で最も考えさせられたのは、「推し」という存在の意味だ。あかりは「推しは私の背骨だ」と言う。それは単なる趣味や娯楽ではなく、彼女のアイデンティティそのものを支える柱なのだ。だからこそ、推しの炎上と共に彼女の日常も崩れ始める。
特に印象に残ったのは、あかりが真幸のラストライブ後、彼女の住居を訪れるシーンだ。そこで見た何気ない日常の光景に、あかりは衝撃を受ける。これまで集めてきたグッズや情報は、たった一枚の洗濯物にも敵わないという気づきは痛烈だった。推しと自分との距離、そして推し活動の意味について深く考えさせられる場面だ。
この作品は、現代のアイドル文化やファン文化を通して、若者のアイデンティティの形成や、社会との関わり方を描いている。あかりの友人である成美との対比も興味深い。成美は学業優秀で「普通」の価値観を持っているが、あかりの「推し」に対する熱量を理解できない。この二人の対比は、異なる価値観を持つ人間同士の理解の難しさを表している。
物語の終盤、あかりが自分なりの生き方を選び取ろうとする姿は、奇妙でありながらも力強い。社会の「普通」に合わせるのではなく、自分に合った生き方を模索する彼女の姿に、私は共感した。誰もが同じ道を歩む必要はなく、自分なりの生き方を見つけることの大切さを、この作品は教えてくれる。
宇佐見りんの文体は簡潔でありながら、登場人物の内面を鋭く描写している。特に、あかりの視点から見た世界は独特の色彩を持ち、読者を彼女の感覚へと引き込む。また、現代のSNS文化や炎上の描写も秀逸で、私たちが生きる時代の特徴を的確に捉えている。
『推し、燃ゆ』は単にアイドルファンの物語ではなく、現代社会における若者のアイデンティティ形成や、「普通」とされる価値観への問いかけを含んだ作品だ。私たちは何に価値を見出し、何を支えに生きているのか。そして、その支えが崩れたとき、どう立ち直るのか。この小説はそんな普遍的な問いを、「推し」という現代的なテーマを通して問いかけている。
私は読後、自分の「背骨」は何なのかを考えずにはいられなかった。あかりのような熱量で打ち込めるものがあるだろうか。そして、それが失われたとき、自分はどう立ち直るのだろうか。そんな自問を促してくれる、考えさせられる一冊だった。
『推し、燃ゆ』はどんな人向けの小説か
『推し、燃ゆ』は様々な読者層に響く物語ですが、特に以下のような方におすすめです。
- アイドルやアニメなど「推し活」をしている人
- 現代の若者文化や孤独に関心がある人
- 純文学や心理描写を好む読者
- 自分のアイデンティティや生き方を考えたい人
- 社会のマイノリティに関心がある人
この小説は「推し」という現代的なテーマを扱いながらも、人間の孤独や自己肯定感といった普遍的な問題に迫る内容で、幅広い読者に響く作品となっています。
特に10代から30代の若い読者には、主人公のあかりの感情や経験に共感できる部分が多いでしょう。
また、「推し」という言葉や文化に馴染みのない方にとっても、現代の若者文化を知る入り口として興味深い一冊になるはずです。
『推し、燃ゆ』に類似した内容の小説3選
『推し、燃ゆ』を読んで感動した方や、似た雰囲気の作品をもっと読みたいという方のために、類似した小説を3つ紹介します。
『コンビニ人間』村田沙耶香
この小説も芥川賞受賞作で、社会の中で「普通」とされる枠に収まらない主人公の生き方を描いています。
主人公は36歳のコンビニ店員で、周囲から「普通」の生き方を強要されながらも、自分なりの居場所や生き方を模索します。
『推し、燃ゆ』と同様に、社会的マイノリティの視点から描かれる現代社会と、そこでの居場所の見つけ方というテーマが共通しています。

『金閣寺』三島由紀夫
一見すると古典的な作品ですが、『推し、燃ゆ』とは主人公の行動や物語の結末に類似点があります。
両作品とも、主人公が物語の終盤で予想外の行動を取り、読者の期待を裏切るような形で「生きよう」と決意する点が似ています。
美に対する執着や、その執着が生む歪みという点でも共通するテーマを持っています。
『武道館』朝井リョウ
アイドルとファンの関係性を描いた小説で、『推し、燃ゆ』と同様に現代のファン文化を取り上げています。
地下アイドルグループとそのファンたちの姿を通して、夢を追いかける若者たちの葛藤や成長が描かれています。
『推し、燃ゆ』と共通するアイドル文化というテーマを持ちながらも、より多面的な視点からアイドルとファンの関係性を描いている点が特徴です。
振り返り
『推し、燃ゆ』のあらすじをさまざまな長さで紹介し、作品情報や登場人物、読書感想文のポイントまで詳しく解説してきました。
宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』は、現代の若者文化を描きながらも、人間の普遍的なテーマを浮き彫りにする秀作です。
短く読みやすい作品ですが、その内容は深く、読後も長く考えさせられる一冊となっています。
ぜひ実際に手に取って、あかりの物語を体験してみてください。
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