横光利一『蠅』のあらすじを短く簡単に&詳しく

横光利一『蠅』のあらすじ あらすじ

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横光利一『蠅』のあらすじをご紹介します。

この小説は新感覚派の登場で文壇を賑わせた横光利一(よこみつりいち)の出世作で、たった10ページの短編なのに深い味わいが詰まっています。

私は年間100冊以上の本を読む本の虫ですが、この『蠅』は何度読んでも新しい発見がある珠玉の作品ですよ。

読書感想文を書く予定の皆さんのために、短いあらすじから詳しいあらすじまで段階的に紹介していきます。

この記事を読めば、あなたの読書感想文はきっと輝きますよ。

『蠅』の短くて簡単なあらすじ

真夏の宿場で、一匹の蠅が蜘蛛の巣から落ちる。そこで馬車に乗り込んだ様々な事情を持つ人々。居眠りした老馭者のせいで馬車は崖から転落。ただ一匹の蠅だけが生き残り、青空へと飛び立った。

『蠅』の中間の長さのあらすじ

真夏の宿場で、一匹の蠅が蜘蛛の巣から脱出し、馬の背中に這い上がる。そこには息子の危篤を知らせる電報を受け取った農婦、駆け落ちらしき若いカップル、母子連れ、そして大金を手にした田舎紳士が馬車を待っていた。饅頭好きの老馭者が馬車を出発させるが、途中で居眠りをして事故を起こす。崖下に転落した馬車から、蠅だけが悠々と空へ飛び立っていった。

『蠅』の詳しいあらすじ(ネタバレあり)

真夏の宿場の厩で、大きな目をした一匹の蠅が蜘蛛の巣から落ち、馬糞に突き立った藁から馬の背中まで這い上がる。そこに、息子の危篤電報を受け取った農婦が宿場に到着するが、馬車はすでに出発した後だった。その後、駆け落ちらしき若いカップル、母親に手を引かれた男の子、そして春蚕の仲買で800円を得た43歳の田舎紳士も宿場に集まる。

農婦が催促する中、饅頭屋の前で将棋をさしていた猫背の老馭者は、蒸したての饅頭を楽しんでから馬車の出発準備を始める。乗客が乗り込み、馬車は出発。車内では田舎紳士の饒舌で乗客たちはすっかり打ち解けるが、饅頭で満腹になった馭者は居眠りを始める。

高い崖路に差し掛かった時、蠅以外の誰も馭者の居眠りに気づかず、ついに車輪が路から外れて馬車は崖下に転落。悲鳴と共に馬車は木端微塵に砕け、人馬は圧し重なったまま動かなくなる。大きな目の蠅だけが、羽に力を込めて悠々と青空を飛んでいったのだった。

『蠅』の作品情報

』の基本情報を表にまとめました。

この作品の魅力を理解するための手助けになるはずです。

項目 内容
作者 横光利一
出版年 1923年(大正12年)5月
出版社 雑誌『文藝春秋』に掲載、翌年『日輪』に収録
受賞歴 特になし(ただし文壇出世作として評価)
ジャンル 短編小説(掌編)、新感覚派文学
主な舞台 夏の宿場と馬車の中
時代背景 大正時代
主なテーマ 生と死、運命の不条理、人間の欲望
物語の特徴 映像的な描写、蠅の視点を通した物語展開
対象年齢 高校生以上

『蠅』の主要な登場人物とその簡単な説明

『蠅』に登場する人物たちは、それぞれ異なる事情や思いを抱えています。

彼らの特徴をまとめました。

登場人物 説明
作品の中心的な存在。物語の視点を提供し、唯一生き残る
馭者(ぎょしゃ) 猫背の老いた馬車の運転手。饅頭好きで居眠りが事故の原因となる
農婦 息子の危篤の知らせを受け取り、馬車を待っている年配の女性
若いカップル 駆け落ちらしき様子の若者と娘
母子 幼い男の子とその母親。男の子は馬に興味を示す
田舎紳士 43歳。春蚕の仲買で800円を儲け、息子への土産を考えている
饅頭屋の主婦 馭者と将棋をしている宿場の饅頭屋の女性

登場人物は多くありませんが、それぞれが象徴的な役割を担っており、物語の不条理さを浮き彫りにしています。

『蠅』の読了時間の目安

『蠅』はとても短い小説ですので、読了時間はそれほどかかりません。

以下に目安をまとめました。

項目 数値
文字数 約3,800文字
推定ページ数 約6~7ページ
読了時間 約8分
読みやすさ 独特の文体で少し難しいが短いため取り組みやすい

10ページ足らずの掌編小説なので、一息に読み切ることができます。

ただ、内容は深いので、じっくりと味わいながら読むことをおすすめします。

『蠅』の読書感想文を書くうえで外せない3つの重要ポイント

『蠅』の読書感想文を書く際には、この作品ならではの特徴や魅力をとらえることが大切です。

特に以下の3つのポイントは外せません。

  • 新感覚派の特徴的な文体と映像的描写
  • 不条理と生命の偶然性というテーマ
  • 視点の特殊性(蠅の視点)が持つ意味

それぞれのポイントについて詳しく解説します。

新感覚派の特徴的な文体と映像的描写

『蠅』は横光利一が新感覚派の代表作家として書いた作品で、その文体は当時の文壇に新風を吹き込みました。

新感覚派とは、従来のリアリズム文学に対して、感覚的・映像的な表現を重視した文学運動です。

『蠅』では、蠅の視点から見た世界が鮮明に描かれており、まるで映画のカメラが動くように場面が切り替わっていきます。

たとえば、蠅が蜘蛛の巣から落ちる場面や、馬の背中に這い上がる様子などは、とても視覚的に描かれています。

この映像的な描写は横光独特の「横光節」と呼ばれる文体によるものです。

読書感想文では、この新しい文体がどのように物語の世界を作り上げているか、またそれがあなたにどんな印象を与えたかを書くと良いでしょう。

不条理と生命の偶然性というテーマ

『蠅』の中心テーマは「生と死の不条理さ」です。

様々な人生や願いを持った人々が馬車に乗り込み、その全員が突然の事故で命を落とすという展開は、人間の運命の脆さを象徴しています。

一方、誰も気にかけない一匹の蠅だけが生き残るという結末には、生命の価値や偶然性についての深い問いが含まれています。

なぜ蠅だけが助かったのか?人間の命とハエの命に違いはあるのか?このような哲学的な問いかけが作品の奥深さを作っています。

読書感想文では、この不条理性があなたにどのような感情や思考を喚起したかを掘り下げると、独自性のある感想になるでしょう。

視点の特殊性(蠅の視点)が持つ意味

『蠅』の最大の特徴は、物語が蠅の視点を通して展開されることです。

一見取るに足りない存在である蠅が、人間たちの運命を見つめる観察者となっている点は非常に斬新です。

蠅は人間たちの会話や行動を見ていますが、警告することもできず、ただ状況を見守るしかありません。

この視点の転換によって、読者は普段とは異なる視点から人間の営みや生死を考えることになります。

また、蠅だけが生き残るという結末には、自然の無関心さや、人間中心の価値観への問いかけも含まれているのではないでしょうか。

読書感想文では、この特殊な視点設定があなたにどのような新しい気づきをもたらしたかを書くと、深みのある内容になるはずです。

※横光利一が『蝿』で伝えたいことは、以下の記事で考察しています。

横光利一『蝿』が伝えたいこと。視点が変わる5つの核心部分
横光利一『蝿』が伝えたいことを20年以上この作品と向き合ってきた読書家が解説。小さな蝿の視点から描かれる人間社会の真実とは?作品の読み方から実生活での活かし方まで、若い読者に向けて作品の本質的な価値を伝えます。

『蠅』の読書感想文の例(読書感想文4枚/約1600文字)

私は今回、横光利一の短編小説『蠅』を読んだ。最初は一匹の蠅を主人公にした物語と聞いて、正直あまり期待していなかった。しかし読み進めるうちに、この小さな作品が持つ深いテーマと独特の表現方法に引き込まれていった。

『蠅』は、真夏の宿場町で一匹の蠅を中心に展開する物語だ。様々な事情を抱えた人々が宿場に集まり、馬車に乗り込む。そして馭者の居眠りによって崖から転落するという悲劇的な事故が起こるが、蠅だけが生き残るという結末に至る。たった10ページ程度の短い物語なのに、読み終えた後の余韻は長く続いた。

最も印象に残ったのは、この作品の独特な視点だ。物語は蠅という小さな生き物の目を通して展開される。普段、私たちは蠅のような存在に注目することはないだろう。むしろ煩わしいものとして追い払うことの方が多い。しかしこの物語では、そんな蠅が客観的な観察者として人間たちの運命を見守る。この視点の転換が新鮮で、人間中心の考え方を見直すきっかけになった。

例えば、馬車に乗り込む人々はそれぞれ異なる人生を生きている。息子の危篤を知らせる電報を受け取った農婦、駆け落ちらしき若いカップル、好奇心旺盛な子どもとその母親、春蚕の仲買で儲けた田舎紳士。彼らは自分の人生の中で様々な物語を持ち、それぞれの目的地に向かおうとしていた。それなのに、彼らの人生は馭者の居眠りという些細なきっかけで一瞬にして終わってしまう。この不条理さが強く心に残った。

また、新感覚派と呼ばれる文学運動の特徴がよく表れていると感じた。横光利一の文体は非常に映像的で、まるで映画のカメラが動くように場面が切り替わる。蠅が蜘蛛の巣から落ちる場面や、馬の背中に這い上がる様子など、細かい動きまで鮮明に描かれている。これは「横光節」と呼ばれる独特の文体によるものだと学んだ。

特に印象的だったのは、馬車が崖から転落する瞬間の描写だ。蝿の目を通して描写される文章からは、悲劇の瞬間が鮮明に伝わってくる。

この作品を読んで考えさせられたのは、生命の価値と偶然性についてだ。なぜ蠅だけが生き残ったのか?人間の命と蠅の命に違いはあるのか?私たちは自分の命が永遠に続くと思い込みがちだが、実際には些細なきっかけで失われることもある。そんな当たり前だけど見落としがちな真実をこの小説は教えてくれた。

また、人間の欲望と運命の関係も興味深いテーマだと感じた。馭者が饅頭にこだわり、それを食べた満足感から居眠りをして事故を起こすという展開は、人間の小さな欲望が取り返しのつかない結果をもたらすことを象徴している。他の乗客たちもそれぞれの欲望や願望を持っていたが、それらは一瞬で無に帰してしまう。

私自身、日常生活の中で「今」という瞬間を大切にしているだろうか、と考えさせられた。私たちは未来のことばかり考えて、今この瞬間を見落としがちだ。でも『蠅』の登場人物たちのように、思いがけない形で未来が断ち切られることもある。だからこそ、一瞬一瞬を大切に生きることの重要性を再認識した。

最後に、この作品が書かれた時代背景も興味深い。1923年、作品発表のわずか4か月後に関東大震災が起きている。横光利一はこの作品で人間の運命の不確かさを描いたが、それが現実となって多くの命が失われたのは皮肉な偶然だ。この事実を知ると、作品の預言的な側面にも驚かされる。

『蠅』は短い作品だが、私に多くのことを考えさせてくれた。人間の生命の儚さ、視点を変えることの大切さ、そして「今」を生きることの意味。これからの人生で、この作品から学んだことを忘れずにいたいと思う。

『蠅』はどんな読者に向いた小説か?

横光利一の『蠅』は、どんな読者に向いているのでしょうか。

この小説の魅力を最大限に味わえる読者層を考えてみました。

  • 文学的実験や新しい表現方法に興味がある人
  • 人間の存在や運命の不条理について考えたい人
  • 短時間で読める濃密な作品を求めている人
  • 視点の転換による新しい世界の見方を体験したい人
  • 日本近代文学の流れに関心がある人
  • 深いテーマを持ちながらもユーモアを感じられる作品を好む人

『蠅』は短いながらも、深い人間理解や哲学的テーマを含んでいます。

普段は見落としがちな視点から世界を見ることで、新たな発見をもたらしてくれる作品ですよ。

『蠅』に類似した内容の小説3選

横光利一の『蠅』を読んで感動した方には、似たようなテーマや文体を持つ以下の作品もおすすめです。

どれも視点の特殊性や人間の存在についての深い考察が含まれています。

芥川龍之介『藪の中』

芥川龍之介の『藪の中』は、一つの事件を複数の証言者の視点から描く短編小説です。

『蠅』と同様に、視点の転換が重要な役割を果たしており、真実がどこにあるのかを読者に考えさせる作品となっています。

同じ出来事でも見る人によって全く違う解釈がなされるという人間認識の不確かさは、『蠅』における生と死の不条理性というテーマと通じるものがあります。

三島由紀夫『金閣寺』

三島由紀夫の『金閣寺』は、主人公の内面描写を通じて美と破壊の関係を探る小説です。

『蠅』と共通するのは、独特の視点から物事を見つめるという点です。

主人公の内面世界と外部世界の対比、そして美しいものへの憧れと破壊衝動という二面性は、『蠅』における生命の価値についての問いかけに通じるテーマだと言えるでしょう。

織田作之助『夫婦善哉』

織田作之助の『夫婦善哉』は、大阪を舞台に一組の夫婦の生活を描いた小説です。

一見すると『蠅』とは異なる作品に思えますが、日常の中に潜む運命の皮肉さや、人間関係の機微を鋭く描写している点では共通しています。

また、庶民の生活を細部まで映し出す視点は、『蠅』で蠅の目を通して人間の営みを観察する視点と似た効果を生み出しています。

振り返り

横光利一の『蠅』は、わずか10ページほどの短編小説ながら、深いテーマと独特の視点で読者に強い印象を残す作品です。

新感覚派の特徴的な文体や、蠅の視点を通して描かれる人間の運命の不条理さは、読書感想文を書く上でも格好の題材となるでしょう。

本記事では、あらすじから読書感想文のポイント、類似作品まで幅広く紹介しました。

読書感想文を書く際には、特に「新感覚派の文体的特徴」「不条理と生命の偶然性」「視点の特殊性」という3つのポイントを意識すると、深みのある内容になるはずです。

この記事が皆さんの読書体験や感想文執筆の一助になれば幸いです。

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