太宰治『人間失格』の読書感想文を書こうと考えている中学生・高校生の皆さん、こんにちは。
この『人間失格』は、太宰治が自身の人生最後の年である1948年に執筆した代表作のひとつです。
戦後の売り上げは新潮文庫版だけでも累計発行部数670万部を突破しており、夏目漱石の『こころ』と何十年にもわたり累計部数を争っている文学史に残る名作なんですね。
主人公である大庭葉蔵の「人間失格」という深い自己否定と、他人への恐怖から道化を演じ続ける姿を描いた作品で、現代の私たちにも通じる普遍的な「生きづらさ」が込められています。
私は読書が趣味で年間100冊以上の本を読んでいますが、『人間失格』は何度読み返しても新しい発見がある奥深い作品だと感じます。
この記事では、『人間失格』の読書感想文を書く際に必ず押さえておくべき重要ポイントから、実際の感想文の例まで、皆さんの読書感想文の書き方をサポートしていきますよ。
きっと印象に残る素晴らしい感想文が書けるようになるでしょう。
『人間失格』の読書感想文を書くうえで外せない3つの重要ポイント
『人間失格』の読書感想文を書く際に、どのような点に注目すべきでしょうか。
この作品には多くのテーマが込められていますが、特に重要な3つのポイントがあります。
- 主人公・葉蔵の「道化」という仮面と人間への恐怖
- 「恥の多い生涯」から始まる自己否定と孤独感
- 太宰治自身の人生が反映された自伝的要素と普遍的メッセージ
これらのポイントを深く理解することで、表面的ではない、心に響く読書感想文が書けるようになります。
それぞれのポイントについて詳しく解説していきましょう。
主人公・葉蔵の「道化」という仮面と人間への恐怖
『人間失格』の主人公である大庭葉蔵は、幼い頃から他人への恐怖を抱き、その恐怖を隠すために「道化」を演じ続けます。
葉蔵は人前では面白おかしくおどけてみせるものの、本当の自分を誰にもさらけ出すことができません。
この「道化」という仮面は、葉蔵にとって他人から嫌われないための最後の手段でした。
しかし、道化を演じれば演じるほど、本当の自分と周囲の人間との距離は広がっていきます。
葉蔵の道化は、現代社会を生きる私たちが感じる「本音と建前の使い分け」や「周囲に合わせて自分を偽る」といった経験と深く重なります。
学校や家庭で、本当の自分を出せずに悩んだ経験がある人も多いのではないでしょうか。
葉蔵の道化という行動を通して、人間関係の難しさや、自分らしく生きることの困難さについて考察することが、感想文の重要な要素となります。
また、葉蔵が抱く「人間への恐怖」についても深く掘り下げる必要があります。
葉蔵は他人の感情や行動が理解できず、常に恐怖を感じています。
この恐怖は、現代社会における対人関係の複雑さや、他者との共感の難しさとも関連しているでしょう。
「恥の多い生涯」から始まる自己否定と孤独感
『人間失格』は「恥の多い生涯を送って来ました」という印象的な一文で始まります。
この「恥」という言葉には、葉蔵の深い自己否定と絶望が込められています。
葉蔵にとっての「恥」は、単なる失敗や過ちではありません。
人間として生きることができない自分への深い嫌悪感と、世間から隔絶された孤独感を表しているのです。
葉蔵は自分を「人間失格」だと断じ、一般的な人間の営みに対して強い違和感を抱きます。
食欲や金銭欲といった基本的な欲求さえも、葉蔵には理解できないものでした。
この自己否定は、現代を生きる多くの人が感じる「自分はこのままでいいのか」という不安や、「自分は他の人とは違う」という疎外感と通じるものがあります。
特に思春期の中学生・高校生にとって、自分の存在価値や生きる意味について悩むことは珍しいことではありません。
葉蔵の孤独感は、現代社会における人間関係の希薄化や、SNSなどでつながっているように見えて実は孤独である現実とも重なります。
感想文では、葉蔵の自己否定と孤独感について、自分自身の経験や現代社会の状況と照らし合わせて考察することが大切です。
太宰治自身の人生が反映された自伝的要素と普遍的メッセージ
『人間失格』は、太宰治が自身の人生最後の年に執筆した作品であり、彼自身の人生観や精神状態が色濃く反映されています。
太宰治は複数回の自殺未遂を経験し、薬物問題も抱えていました。
『人間失格』の執筆から約1か月後、太宰治は玉川上水で入水自殺を遂げています。
このような背景を知ることで、作品の深層にある「生きることの苦しさ」や「人間存在への問いかけ」をより深く理解できます。
しかし、『人間失格』は単なる暗い作品ではありません。
太宰治は徹底的な自己分析を通して、「人間とは何か」という根本的な問いを投げかけています。
葉蔵の苦悩は、時代や社会を超えて多くの人が共感できる普遍的なテーマでもあります。
現代社会においても、人間関係の複雑さ、自己肯定感の低さ、居場所のなさといった問題を抱える人は少なくありません。
感想文では、太宰治の人生と作品の関連性について触れつつ、現代社会との共通点や、作品が現代の私たちに投げかけるメッセージについて考察することが重要です。
また、この作品を読むことで、自分自身の人間観や価値観にどのような影響を受けたかについても述べることで、個人的で説得力のある感想文になります。
※『人間失格』で太宰治が伝えたいことは以下の記事にまとめています。

『人間失格』を読んだら感想をメモしておきたい3項目
読書感想文を書く前に、まず自分がどう感じたかをメモしておくことがとても大切なんですよね。
感想文で最も重要(=評価されやすい)なのは、作品を読んだことで自分の心にどのような変化や気づきが生まれたかを表現することですから。
『人間失格』を読む際に、特に注目してメモしておきたい3つの項目があります。
- 主人公・葉蔵の「生きづらさ」に対してあなたが感じたこと
- 「恥」や「罪悪感」に対してあなたが感じたこと
- 太宰治の「人間観」に対してあなたが感じたこと
これらの項目について、読みながら素直な気持ちをメモしておきましょう。
後で感想文を書くときに、きっと役立つはずです。
主人公・葉蔵の「生きづらさ」に対してあなたが感じたこと
葉蔵は、他人とうまく関われず、常に仮面をかぶって生きています。
彼の「生きづらさ」や孤独感を読んでいて、あなたはどのような気持ちになったでしょうか。
共感したのか、それとも理解できなかったのか。
自分自身の経験と照らし合わせて、どのような感情が湧いてきたかをメモしておくことが大切です。
例えば、「自分も人前で本音を言えないことがあるので、葉蔵の苦しさに共感した」といった具体的な感情や、「葉蔵の道化を演じる姿に、自分が周囲に合わせて無理をしている時の気持ちを重ねた」などの体験と結びつけた感想をメモしておきましょう。
また、葉蔵の行動に対して疑問を感じた場合も、その疑問をそのままメモしておくことが重要です。
「なぜ葉蔵は本当の自分を出そうとしないのか」といった疑問も、感想文を書く際の貴重な材料になります。
「恥」や「罪悪感」に対してあなたが感じたこと
『人間失格』は「恥の多い生涯を送って来ました」という一文で始まり、葉蔵は深い「恥」や「罪悪感」を抱えて生きています。
この「恥」という感情について、あなたはどう受け止めたでしょうか。
葉蔵の抱える「恥」は、自分が人間として失格だという深い自己否定から生まれています。
現代を生きる私たちも、失敗したときや期待に応えられなかったときに、強い恥ずかしさや罪悪感を感じることがあります。
葉蔵の「恥」に対して、「自分も似たような気持ちを感じたことがある」と共感したのか、それとも「そこまで自分を責める必要はない」と感じたのか。
あなたの素直な気持ちをメモしておきましょう。
また、葉蔵が抱える罪悪感についても、どのような印象を受けたかを記録しておくことが大切です。
太宰治の「人間観」に対してあなたが感じたこと
『人間失格』には、太宰治自身の人生観や人間観が色濃く表れています。
「人間とは何か」「本当の自分とは何か」といった根本的な問いかけに対して、あなたはどのような考えや感想を持ったでしょうか。
太宰治は、人間の弱さや醜さを徹底的に描きながらも、その中に人間の本質を見出そうとしています。
葉蔵の物語を通して描かれる人間観について、納得できる部分と疑問に感じる部分があったかもしれません。
例えば、「人間は誰しも弱さを持っているという太宰の考えに納得した」といった共感や、「人間をもっと前向きに捉えることもできるのではないか」といった異なる視点も、感想文を書く上で重要な材料となります。
太宰治の人間観が、あなた自身の人間に対する考え方にどのような影響を与えたかについても、メモしておくとよいでしょう。
※『人間失格』のあらすじはこちらの記事でご覧ください。

『人間失格』の読書感想文の例(800字の中学生向けバージョン)
【題名】「人間」として生きることの難しさ
私は太宰治の『人間失格』を読んで、人間として生きることの難しさについて深く考えさせられた。
主人公の大庭葉蔵は、幼い頃から他人への恐怖を抱き、その恐怖を隠すために道化を演じ続ける。葉蔵の「恥の多い生涯を送って来ました」という言葉から始まる物語は、私にとって衝撃的だった。なぜなら、私も人前で本当の自分を出すことができず、周囲に合わせて無理をすることがあるからだ。
葉蔵が道化を演じる理由は、他人から嫌われたくないという恐怖からだった。しかし、道化を演じれば演じるほど、本当の自分と周囲の人間との距離は広がっていく。この矛盾した状況は、現代の私たちが感じる人間関係の複雑さと重なる部分がある。
私は中学生になってから、友達の前では明るく振る舞っているが、実は一人でいる時間の方が楽だと感じることが多い。葉蔵の気持ちが少しだけ分かるような気がした。ただし、葉蔵のように完全に絶望してしまうのではなく、本当の自分を受け入れてくれる人がいることも信じたいと思う。誰かに弱さを見せる勇気があれば、人とのつながりはもっと温かく、深いものになるのではないかと感じた。
葉蔵が抱く「人間失格」という意識についても考えさせられた。彼は自分が他の人間とは違うと感じ、深い孤独感に苛まれている。しかし、私は人間はそれぞれ違って当然だと思う。葉蔵の繊細さや他人への思いやりは、決して悪いことではないはずだ。むしろ、そのような優しさこそが人間らしさだと私は思う。誰にも理解されないと感じる瞬間は誰にでもあるけれど、その中で誰か一人でも自分をわかってくれる人の存在が、救いになるのだと信じたい。
この作品を読んで、人間として生きることには確かに困難が伴うが、それでも生きていく価値があるのではないかと考えるようになった。葉蔵のような苦しみを抱える人がいることを知り、周囲の人への理解を深めていきたいと思う。そして、自分自身の弱さも少しずつ受け入れていけたらと願っている。
『人間失格』の読書感想文の例(2000字の高校生向けバージョン)
【題名】「人間失格」から見える現代社会の課題
太宰治の『人間失格』を読み終えて、私は深い衝撃と共に、現代社会を生きる私たち自身の姿を見つめ直すきっかけを得た。この作品は単なる暗い小説ではなく、人間存在の本質に迫る普遍的なテーマを含んでいると感じる。
主人公である大庭葉蔵の「恥の多い生涯を送って来ました」という印象的な冒頭は、読者である私の心に強く響いた。葉蔵が抱く「恥」という感情は、単なる失敗や過ちに対する羞恥心ではない。それは人間として生きることができない自分への深い嫌悪感と、世間から隔絶された孤独感を表している。現代社会においても、自分の存在価値に疑問を抱き、他者との関係に悩む人は少なくない。私自身も高校生活の中で、「自分はこのままでいいのか」という不安を感じることがある。
葉蔵が道化を演じ続ける姿は、現代社会における「本音と建前の使い分け」の極端な例として捉えることができる。彼は他人への恐怖を隠すために、人前では面白おかしくおどけてみせる。しかし、この道化という仮面は、葉蔵をさらなる孤独へと追い込んでいく。SNSが普及した現代社会では、多くの人が理想的な自分を演出し、本当の姿を隠している場面が見られる。葉蔵の道化と現代のSNS上での自己演出には、共通する部分があるのではないだろうか。
私たちは日々、周囲との調和や期待に応えることに意識を向けがちだが、その過程で本来の自分を見失ってしまうこともある。本音を押し殺し続ければ、自分の存在が薄れていくような感覚に襲われることもある。葉蔵の苦悩は、そうした現代人が抱えるジレンマを象徴していると感じた。また、自分の感情をうまく表現できない人ほど、内に深い孤独を抱えやすいという現実にも気づかされた。葉蔵のような人物を「弱い人」と片づけてしまうのではなく、その内面にある葛藤に耳を傾けることが必要だと思う。
太宰治自身の人生が色濃く反映されたこの作品は、作者の徹底的な自己分析の結果でもある。太宰治は複数回の自殺未遂を経験し、薬物問題も抱えていた。『人間失格』の執筆から約1か月後に自殺を遂げたという事実は、この作品が単なるフィクションではなく、作者の魂の叫びでもあることを物語っている。しかし、太宰治は絶望の中にあっても、人間とは何かという根本的な問いを投げかけ続けた。この姿勢は、現代を生きる私たちにとっても重要な示唆を与えている。
葉蔵が抱く「人間への恐怖」についても深く考えさせられた。彼は他人の感情や行動が理解できず、常に恐怖を感じている。この恐怖は、現代社会における対人関係の複雑化や、多様性の中で他者を理解することの困難さと関連している。グローバル化が進む現代では、異なる価値観や文化背景を持つ人々との交流が増加している。その中で、他者への理解や共感の重要性がより一層高まっている。
葉蔵の自己否定と孤独感は、現代社会の構造的な問題とも関わっている。競争社会の中で、多くの人が他者との比較によって自己価値を測る傾向がある。その結果、自分を否定的に捉えがちになることも少なくない。しかし、人間の価値は単純な比較では測れないものだということを、この作品は教えてくれる。
一方で、私は葉蔵の物語に完全に絶望的な側面だけを見るべきではないとも考える。彼の繊細さや他人への思いやり、そして自分自身を深く見つめる能力は、決して否定されるべきものではない。現代社会においても、葉蔵のような感受性の強い人々が生きやすい環境を作ることが重要だと思う。人は孤独の中でこそ、自分自身と向き合い、本当の意味での人間らしさを見出すことができるのかもしれない。
この作品を読むことで、私は人間関係の複雑さや自己肯定感の重要性について改めて考えるようになった。また、他人の苦しみに対する理解と共感の大切さも学んだ。葉蔵のような孤独を感じている人がいることを知り、周囲の人々への思いやりを持って接することの重要性を実感している。今後、誰かが助けを求めているサインに気づけるよう、自分自身の感受性を大切にしていきたいと感じた。
『人間失格』は確かに重いテーマを扱った作品だが、そこには人間存在への深い洞察と、生きることの意味についての問いかけが込められている。現代社会を生きる私たちにとって、この作品から学べることは多い。人間として生きることの困難さを受け入れながらも、それでも生きていく価値を見出していくことが、私たちに求められているのではないだろうか。そして、自分も他人も「失格」と決めつけるのではなく、不完全さを抱えたままでも共に生きていける社会を目指すことが大切だと感じた。
振り返り
この記事では、太宰治『人間失格』の読書感想文を書くための重要なポイントから実際の感想文例まで、詳しく解説してきました。
『人間失格』は確かに重いテーマを扱った作品ですが、現代を生きる私たちにとって多くの学びがある名作です。
主人公・葉蔵の道化という仮面や人間への恐怖、「恥」から始まる自己否定と孤独感、そして太宰治自身の人生が反映された普遍的なメッセージ。
これらのポイントを押さえて、自分自身の体験や感情と重ね合わせることで、きっと心に響く素晴らしい読書感想文が書けるはずです。
大切なのは、作品を読んで自分がどう感じたかを素直に表現することです。
完璧な文章を書こうとせず、あなたの率直な気持ちを言葉にしてみてください。
きっと先生や周りの人にも伝わる、印象深い感想文になるでしょう。
※もっと気楽に読みたい方はこちらの記事で魅力や面白いところをご紹介していますので、ご覧になってみてください。

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