辞書編纂の情熱が描かれた名作『舟を編む』のあらすじをシンプルに紹介します。
三浦しをんさんの筆による2011年発表の本作は、言葉を愛する人々の心を打つストーリーとして多くの読者に愛されています。
私は年間100冊以上の本を読む読書家ですが、この作品の魅力は何度読んでも色あせません。
この記事では『舟を編む』のあらすじを、簡単に・短くまとめたものから詳しいものまで段階的に紹介し、読書感想文執筆のヒントもたっぷりお伝えします。
『舟を編む』の短いあらすじ
『舟を編む』の簡単なあらすじ
営業部で厄介者扱いされていた言語学専攻の馬締光也は、定年間近の荒木公平に見出され辞書編集部へ。新しく刊行する辞書『大渡海』の編集メンバーとなった馬締は、その鋭い言語感覚を活かし辞書づくりに没頭していく。
チャラ男の西岡、几帳面な契約社員の佐々木など個性的なメンバーと共に、馬締は辞書という「言葉の海を渡る舟」を編んでいく。下宿先の大家の孫娘・香具矢との交流を通じ、言葉で「伝えたい」「つながりたい」という思いも芽生えていった。
『舟を編む』の詳しいあらすじ
玄武書房に勤める馬締光也は、皮肉が通じず対人コミュニケーション能力の低さから第一営業部で厄介者扱いされていた。しかし、定年間近の辞書編集部のベテラン・荒木公平は、馬締の言語学の知識と鋭い言語感覚を見抜き、新しく刊行する辞書『大渡海』の編集メンバーとして引き抜いた。
辞書編集部には、馬締の対極にあるチャラ男の西岡正志、黙々と事務作業をこなす中年女性・佐々木薫、監修担当の老国語学者・松本朋佑らが所属していた。当初馬締は辞書編集部になじめず悩むが、次第に言葉への情熱を自覚していく。
馬締の暮らす下宿「早雲荘」には、大家のタケと孫娘の香具矢がいた。香具矢は板前見習いとして働いており、馬締のよき理解者となっていく。一方、西岡も辞書に愛情を持ち始め、宣伝広告部への異動後も『大渡海』のサポートを続けることを決意した。
辞書編纂の長い道のりで様々な困難に直面するも、言葉への愛と仲間との絆を深めながら、『大渡海』の完成へと向かう彼らの姿が描かれている。
『舟を編む』の作品情報
『舟を編む』の基本情報を表にまとめました。読書感想文を書く際の参考にしてください。
| 作者 | 三浦しをん |
|---|---|
| 出版年 | 2011年 |
| 出版社 | 光文社 |
| 受賞歴 | 第44回メフィスト賞、第28回中央公論文芸賞、2012年本屋大賞 |
| ジャンル | 文学・仕事小説 |
| 主な舞台 | 出版社「玄武書房」と下宿「早雲荘」 |
| 時代背景 | 現代（2000年代） |
| 主なテーマ | 言葉の力、辞書編纂の情熱、人とのつながり |
| 物語の特徴 | 辞書作りという専門的な仕事を通じた人間ドラマ |
| 対象年齢 | 中学生以上 |
『舟を編む』の主要な登場人物とその簡単な説明
『舟を編む』の物語を彩る個性豊かな登場人物たちを紹介します。
それぞれのキャラクターが辞書編纂という共通の目標に向かって力を合わせていく様子が感動を誘います。
| 人物名 | キャラクター紹介 |
|---|---|
| 馬締 光也（まじめ みつや） | 主人公。27歳。言語学を専攻し、対人コミュニケーションが苦手だが、言葉への鋭い感覚を持つ。 |
| 荒木 公平（あらき こうへい） | 辞書編集部のベテラン。馬締の才能を見抜き、辞書編集部へ引き抜く。 |
| 西岡 正志（にしおか まさし） | 27歳。馬締とは対照的なチャラい性格だが、社交的で対人折衝能力が高い。 |
| 林 香具矢（はやし かぐや） | 馬締が住む下宿「早雲荘」の大家の孫娘。板前見習い。馬締の理解者となる。 |
| 佐々木 薫（ささき かおる） | 辞書編集部の契約社員。事務作業を黙々とこなす中年女性。 |
| タケ | 早雲荘の大家。香具矢の祖母。馬締を気にかける優しいおばあさん。 |
| 松本 朋佑（まつもと ともすけ） | 『大渡海』の監修を務める老国語学者。荒木の能力を高く評価している。 |
| 三好 麗美（みよし れみ） | 西岡の交際相手。大学時代からの腐れ縁だが、のちに結婚する。 |
| 岸辺 みどり（きしべ みどり） | 13年後の物語で登場する辞書編集部の女性編集者。 |
| 宮本 慎一郎（みやもと しんいちろう） | あけぼの製紙の営業部員。『大渡海』に相応しい辞書用紙の開発に尽力する。 |
『舟を編む』の読了時間の目安
『舟を編む』を読むのにどれくらいの時間がかかるのか、目安を表にまとめました。
読書のペースプランニングにご活用ください。
| ページ数 | 259ページ（単行本） |
|---|---|
| 推定総文字数 | 約155,400文字（259ページ×600文字） |
| 読了時間 | 約5時間10分（155,400÷500文字/分） |
| 1日1時間読書の場合 | 約5日で読了可能 |
| 読みやすさ | 専門用語はあるものの、文章は平易で読みやすい |
読書のペースは個人差がありますが、1日1時間程度の読書時間で約5日で読み終えることができる長さです。
辞書編集という専門的な内容ですが、文章は平易で読みやすいので、スムーズに読み進められるでしょう。
『舟を編む』の読書感想文を書くうえで外せない3つの重要ポイント
『舟を編む』の読書感想文を書く際に、特に注目したい3つの重要なポイントを紹介します。
これらを押さえることで、作品の本質により深く迫ることができるでしょう。
- 言葉と辞書の奥深さ
- 馬締光也の成長と人間関係の変化
- 「舟を編む」という辞書編纂の比喩的表現
それぞれのポイントについて詳しく見ていきましょう。
『舟を編む』における言葉と辞書の奥深さ
この作品のタイトル『舟を編む』には「辞書は言葉の海を渡る舟、編集者はその海を渡る舟を編んでいく」という意味が込められています。
辞書が単なる言葉の集まりではなく、人々の思いや歴史、文化を反映した重要なツールであることが丁寧に描かれています。
特に印象的なのは、作中で馬締たちが一つひとつの言葉の定義や用例に真剣に向き合う場面。
言葉の正確な定義を追求する姿勢は、人々の思いを正確に伝えるための土台となるものです。
この「言葉の力」や「正確さの重要性」について考察することは、読書感想文において重要な視点となるでしょう。
また、言葉が持つニュアンスや文化的背景、時代による変化なども作品を通して示されています。
これらの要素が辞書編纂という作業をより奥深く、魅力的なものに見せている点にも注目してみてください。
『舟を編む』における馬締光也の成長と人間関係の変化
主人公・馬締光也は物語の冒頭では「変人」として周囲から距離を置かれる存在でした。
しかし辞書編集部に加わり、辞書づくりに没頭していく中で、少しずつ成長していきます。
特に注目したいのは、馬締と周囲の人々との関係性の変化です。
チャラ男の西岡、ベテランの荒木、事務担当の佐々木、下宿先の香具矢など、様々な人間関係を通じて馬締が変わっていく様子は、人と人とのつながりの大切さを教えてくれます。
また、馬締だけでなく西岡も辞書づくりに関わる中で変化していきます。
当初は辞書に思い入れのなかった西岡が、次第に辞書に愛情を持ち始め、広告宣伝部への異動後も『大渡海』をサポートし続ける決意をする場面は感動的。
このような人物の成長や変化について自分の考えを述べることで、感想文に深みが出るでしょう。
「舟を編む」という辞書編纂の比喩的表現
タイトルにもなっている「舟を編む」という表現は、辞書づくりの本質を象徴しています。
辞書は「言葉の海を渡る舟」であり、編集者はその舟を一つひとつ丁寧に編んでいくわけですね。
この比喩的表現から、辞書編纂という仕事の重要性や困難さ、そして美しさを読み取ることができます。
辞書づくりは膨大な時間と労力を要する地味な作業ですが、それは人々の生活や文化に深く関わるもの。
一つひとつの言葉に向き合い、最適な定義を追求する姿勢は、現代社会においても大切なものではないでしょうか。
また、「大渡海」という辞書名も象徴的です。言葉という広大な海を渡るための道具を作る—その崇高な使命感についても感想文で触れると良いでしょう。
※作者が『舟を編む』で伝えたいことは、以下の記事で考察しています。
『舟を編む』の読書感想文の例（原稿用紙約3枚強/約1400文字）
私は普段、辞書を引くことがあまりない。スマホのアプリで調べればいいと思っていたし、紙の辞書なんて古臭いとさえ思っていた。しかし、三浦しをんの『舟を編む』を読んで、辞書に対する見方が180度変わった。辞書は単なる言葉の意味を調べるツールではなく、言葉の海を渡るための「舟」であり、それを作る人たちの情熱と献身が詰まった宝物なのだと知った。
主人公の馬締光也は、最初コミュニケーションが下手で周りから浮いた存在だった。けれど、辞書編集部に異動してからの彼の変化は、言葉と向き合うことで人は成長できるということを教えてくれる。馬締が一つ一つの言葉の定義と真剣に向き合う姿勢に、私は深く感動した。普段何気なく使っている言葉にも、こんなにも深い意味や歴史があるのかと驚かされた。
特に印象に残ったのは、辞書編集部の仲間たちの個性だ。チャラい西岡、几帳面な佐々木さん、ベテランの荒木さん、それぞれが全く違う個性を持ちながらも、一つの目標に向かって力を合わせる様子は、チームワークの大切さを教えてくれる。西岡が最初は適当に辞書編集の仕事をしていたのに、だんだんと辞書に愛情を持ち始め、異動が決まった後でさえ『大渡海』のために尽力する場面は、仕事への誇りとは何かを考えさせられた。
馬締と香具矢のやりとりも心に残った。言葉で「伝えたい」「つながりたい」という馬締の変化は、辞書づくりが単なる仕事ではなく、人と人をつなぐ架け橋となることを象徴している。彼が香具矢に対して徐々に心を開いていく過程は、言葉の力を実感させるものだった。
「辞書は言葉の海を渡る舟、編集者はその海を渡る舟を編んでいく」というフレーズは、この物語の核心を表している。私たちは毎日言葉という海を航海している。その中で迷わないためのガイドとなる辞書の重要性を、この小説は静かに、しかし力強く訴えかけてくる。
この作品を読んで、私は自分が使う言葉についても考えるようになった。SNSで適当に書き込んだり、友達との会話で言葉を選ばなかったりすることが多かったけれど、言葉には力があり、正確に使うことが大切だと感じた。馬締たちが一つの言葉にこだわり、最適な定義を見つけるために議論する姿勢は、言葉を大切にすることの意味を教えてくれた。
また、この小説には地味で目立たない仕事の素晴らしさも描かれていると思う。辞書編纂は何年もかけて行われる地道な作業だ。即効性や華やかさはないけれど、誰かの役に立つことができる。そんな仕事の価値を、この物語は静かに語りかけてくる。
私は将来、どんな仕事に就くかまだ決めていないけれど、この小説から学んだことは大きい。目立たなくても、地道でも、情熱を持って打ち込める何かを見つけることの大切さを知った。そして、何よりも言葉の持つ力、人と人をつなぐ言葉の大切さを実感した。
『舟を編む』は、一見地味な題材である辞書編纂の物語だが、そこには人間の情熱や成長、絆といった普遍的なテーマが詰まっている。言葉を大切にし、人とのつながりを求める馬締の姿を通して、私自身も自分の言葉と向き合うきっかけを得た。これからは辞書を手に取る機会があれば、その一つ一つの言葉の背後にある編集者たちの情熱を思い出すだろう。そして、自分の使う言葉にももっと責任を持ちたいと思う。
『舟を編む』はどんな人向けの小説か
『舟を編む』は様々な魅力を持つ作品ですが、特に以下のような方におすすめです。
- 言葉や日本語に興味がある人
- 仕事や職人技に打ち込む姿に感動する人
- 地味だけど奥深い題材を好む人
- 人間関係や成長物語に心を揺さぶられる人
- 辞書や本づくりのプロセスに関心がある人
- コミュニケーションの本質について考えたい人
この作品は、辞書編纂という一見地味な題材を扱いながらも、人間ドラマとしての奥行きが深く、読者の心に長く残る物語です。
専門的な仕事に打ち込む情熱や、様々な個性を持つ人々が一つの目標に向かって力を合わせる様子は、多くの人の共感を呼ぶでしょう。
『舟を編む』と類似した内容の小説3選
『舟を編む』の世界観や雰囲気に近い、おすすめの小説を3つ紹介します。
読書の幅を広げるきっかけにしてください。
『星を編む』（凪良ゆう著）
タイトルに「編む」という言葉が含まれているだけでなく、『舟を編む』と同様に、創造的な作業を通じて人々がつながっていく物語です。
人間関係の機微や、何かを作り上げる過程での葛藤と喜びが描かれており、『舟を編む』のファンにもおすすめです。
『エミリの小さな包丁』（森沢明夫著）
料理を通じて人々の心を温める物語。
『舟を編む』が辞書編纂という専門的な仕事を通じて人々をつなげたように、この小説も料理という創造的な作業を通じて人々の絆を描いています。
主人公が自分の才能を発見し成長していくという点でも共通点があります。
『竈稲荷の猫』（佐伯泰英著）
三味線職人を目指す若い職人の姿を描く物語。
『舟を編む』が辞書編纂という専門的な仕事を題材にしたように、この作品も伝統工芸の世界で夢を追いかける人々の姿を描いています。
職人技や専門知識への情熱、そして地道な努力の先にある達成感という点で類似点が見られます。
振り返り
『舟を編む』は辞書編纂という一見地味なテーマを扱いながらも、言葉の力や人とのつながりの大切さを伝える素晴らしい物語です。
この記事では、簡単な・短いあらすじから詳しいものまで段階的に紹介し、読書感想文を書く際のポイントや参考例も提供しました。
辞書は「言葉の海を渡る舟」であり、その舟を編む人々の情熱と苦労を描いたこの小説から、言葉の大切さや仕事への誇り、人との絆など、多くのことを学ぶことができます。
読書感想文を書く際には、言葉と辞書の奥深さ、馬締の成長と人間関係の変化、「舟を編む」という比喩的表現の3点を中心に据えると、作品の本質により深く迫ることができるでしょう。
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