『トロッコ』のあらすじを知りたい皆さんへ、簡単に短いバージョンからネタバレ有りの詳しい内容まで紹介していきますよ。
芥川龍之介の『トロッコ』は、大正11年(1922年)に発表された心温まる短編小説です。
幼い少年が大人の世界を垣間見る体験を描いたこの作品は、多くの中学校教科書にも採用されているんですよ。
私は年間100冊以上の本を読みますが、この短編小説は短い中にも深いメッセージが込められていて、何度読んでも新しい発見があります。
読書感想文を書く予定の皆さんのために、あらすじや読書感想文のポイントを分かりやすくまとめましたので、ぜひ参考にしてくださいね。
『トロッコ』の簡単なあらすじ
大正時代、8歳の少年・良平は軽便鉄道工事現場のトロッコに夢中になった。
ある日、土工に頼み込んでトロッコを押す体験をするが、帰り道が遠く、日が暮れていくことに気づく。
土工たちから「お前は帰れ」と言われ、良平は一人で暗い山道を必死に走って帰った。
大人になった今も、良平はこの体験を不意に思い出すことがある。
『トロッコ』の中間の長さのあらすじ
大正時代、小田原と熱海の間に軽便鉄道の工事が始まった。
近くに住む8歳の良平は、工事現場のトロッコに強く惹かれていた。
ある日、良平は土工たちに頼んでトロッコを押す体験をさせてもらうが、夕方になり、土工たちから「おれたちは向こう泊まりだからお前は帰れ」と告げられ、遠い道を一人で帰らなければならなくなった。
良平は暗い山道を必死に走って無事に帰り着いた。
大人になった良平は出版社で働いているが、今でもこの出来事を思い出すことがある。
『トロッコ』の詳しいあらすじ(ネタバレあり)
大正時代、小田原から熱海の間に軽便鉄道の敷設工事が始まった。
工事現場の近くに住む8歳の良平は、土砂を運ぶトロッコに強く惹かれていた。
良平は夜中に現場に忍び込んでトロッコを勝手に動かし、怒鳴られて逃げ出したこともあった。
ある日、良平は若い土工に頼み込み、トロッコを押す手伝いをさせてもらえることになった。
最初は喜んでいた良平だが、だんだん村から遠ざかるにつれて不安になってきた。
夕暮れになり、土工たちから「おれたちは向こう泊りだ、もう遅くなったからお前は帰れ」と言われ、良平は愕然とした。
もう暗くなりかけている中、トロッコで来た遠い道を一人で歩いて帰らなければならないのだ。
良平は泣きそうになったが、命さえ助かればと思い、草履も羽織も捨てて必死に暗い坂道を走り抜け、やっと家に帰り着いた。
今や大人になり東京の出版社で働く良平だが、理由もなくこの時の体験を思い出すことがある。
生活に疲れた良平の前には、今でも薄暗い藪や坂のある一筋の道が細々と断続している。
『トロッコ』の作品情報
『トロッコ』についての基本情報をまとめました。
項目 | 内容 |
---|---|
作者 | 芥川龍之介 |
出版年 | 1922年(大正11年) |
掲載誌 | 『大観』(実業之日本社)3月号 |
ジャンル | 短編小説(掌編小説) |
主な舞台 | 小田原・熱海間の軽便鉄道工事現場 |
時代背景 | 大正時代 |
主なテーマ | 子どもの成長、大人の世界との接触、孤独、恐怖との対峙 |
物語の特徴 | 幼い少年の心理描写が繊細に描かれている |
対象年齢 | 中学生以上 |
収録文庫 | 岩波文庫、角川文庫、新潮文庫など |
教科書でも取り上げられる機会が多い作品なので、読書感想文の課題図書として選ばれることも多いですよ。
『トロッコ』の主要な登場人物と説明
『トロッコ』に登場する主な人物をまとめました。
物語を深く理解するために、それぞれのキャラクターの特徴を押さえておきましょう。
人物名 | 説明 |
---|---|
良平(りょうへい) | 8歳の男の子で、物語の主人公。トロッコに強い興味と憧れを持っている。 |
縞のシャツを着た土工 | 若くて優しい性格の土工。良平にトロッコを押させてあげる。 |
耳に挟んだ土工 | 縞のシャツを着た土工と同じトロッコを押している若い土工。 |
背の高い土工 | 古い印半纏に季節外れの麦わら帽をかぶっている。子どもたちがトロッコに触れているのを見つけ、怒鳴る。 |
良平の母親 | 物語の最後に登場し、心配して良平を待っていた。 |
登場人物は少ないですが、それぞれが良平の体験に意味を与える重要な役割を担っています。
『トロッコ』の読了時間の目安
『トロッコ』は短編小説なので、比較的短時間で読み終えることができますよ。
項目 | 内容 |
---|---|
文字数 | 約4,488文字 |
ページ数 | 約7〜8ページ(文庫本換算) |
読了時間(通常) | 約9分(500字/分の場合) |
読了時間(じっくり) | 約15分(300字/分の場合) |
読みやすさ | 中学生でも理解しやすい文体 |
短い作品ですが、じっくり読むことで心理描写の細かさや情景の美しさを味わうことができます。
通学時間や休憩時間など、ちょっとした空き時間で読み終えられる長さですよ。
『トロッコ』の読書感想文を書くうえで外せない3つの重要ポイント
『トロッコ』の読書感想文を書く際に、ぜひ押さえておきたいポイントを紹介します。
この3つのポイントを意識することで、より深みのある感想文が書けるはずです。
- 少年の心理的成長と変化
- 情景描写の象徴性
- 大人と子どもの世界の対比
それでは、それぞれのポイントを詳しく見ていきましょう。
少年の心理的成長と変化
『トロッコ』では、良平の心理的な成長と変化が繊細に描かれています。
物語の始めでは、トロッコに対する純粋な憧れと好奇心に満ちていた良平。
彼にとってトロッコは憧れの対象であり、夢の象徴でした。
良平がトロッコを押す体験をする場面では、彼の喜びが生き生きと描かれています。
「良平は有頂天になった」という表現からは、子どもの無邪気な喜びがよく伝わってきますね。
しかし、その後、村から遠ざかるにつれて感じる不安、土工たちから「向こう泊り」と告げられたときの衝撃など、良平の感情は大きく揺れ動きます。
この変化は単なる恐怖体験ではなく、大人の世界の厳しさに触れた少年の成長の瞬間を表しているのです。
「命さえ助かれば」と思いながら必死に走る場面は、生きるための本能的な強さを描いています。
読書感想文では、この心理変化のプロセスに注目し、自分自身の成長体験と比較して書くと良いでしょう。
情景描写の象徴性
『トロッコ』では、情景描写が登場人物の心理状態を象徴的に表現しています。
工事現場の描写、トロッコの動く様子、夕暮れの風景、暗い山道など、自然や環境の描写が少年の感情と呼応しています。
特に、夕暮れから夜への移り変わりは、良平の不安や恐怖の高まりを象徴しています。
「夕闇のなか」「暗い坂道」といった表現は、単なる時間や場所の描写ではなく、少年の心の闇や恐怖を表しています。
また、大人になった良平の前に「薄暗い藪や坂のある路が一筋、細々と断続している」という最後の描写は、幼少期の体験が人生に与える影響の深さを象徴しています。
読書感想文では、こうした象徴的な描写に着目し、自分なりの解釈を加えることで、作品への理解の深さを示すことができますよ。
大人と子どもの世界の対比
『トロッコ』は、子どもの世界と大人の世界の違いや、その境界線を越える体験を描いています。
良平にとって、土工たちの仕事の世界は憧れであり、未知の領域でした。
トロッコに乗る体験は、その大人の世界に一歩踏み入れることを意味しています。
しかし、土工たちの「おれたちは向う泊りだ」という何気ない一言は、大人と子どもの世界の違いを象徴しています。
大人にとっては当たり前のことでも、子どもにとっては理解できない現実があるのですね。
最後に、大人になった良平が出版社で働きながらも、幼い頃の体験を思い出す場面は、子どもから大人へと成長しても、心の中には常に「子ども時代の自分」が存在することを示しています。
読書感想文では、自分自身が大人の世界に触れて戸惑った経験などと比較しながら、このテーマについて掘り下げると良いでしょう。
※芥川龍之介が『トロッコ』で伝えたいことは、以下の記事で考察しています。

『トロッコ』の読書感想文の例(原稿用紙3枚/約1200文字)
私は芥川龍之介の『トロッコ』を読み、幼い頃の体験がその後の人生にどれほど大きな影響を与えるかを考えさせられた。この物語は短いながらも、子どもの純粋な好奇心と恐怖、そして成長の瞬間を鮮やかに描き出している。
主人公の良平は8歳の少年で、工事現場のトロッコに強く惹かれていた。彼の目に映るトロッコは、ただの作業道具ではなく、未知の世界への入り口だった。良平がトロッコを押す体験ができると聞いたときの喜びは、子どもらしい純粋な感情そのものだ。「有頂天になった」という表現から、彼の無邪気な喜びが伝わってくる。
しかし、物語は単なる子どもの冒険話で終わらない。村から遠ざかるにつれて良平の心に芽生えた不安、そして土工たちから「向こう泊り」と告げられたときの衝撃は、大人の世界の厳しさを初めて知った瞬間だ。自分一人で暗い山道を帰らなければならないという現実に直面したとき、良平は恐怖を感じたことだろう。だけど、「命さえ助かれば」と思いながら必死に走る姿には、生きるための本能的な強さが表れている。
私も小学校低学年のとき、友達と遊んでいて気づいたら日が暮れていたことがある。急に周りが暗くなり、一人で帰る道が怖くなった。その時の不安は今でも覚えている。良平の恐怖は、そんな子どもならではの感情をリアルに描いていると思う。
物語の中で特に印象的だったのは、情景描写だ。夕暮れの風景や暗い山道の描写は、ただの背景ではなく、良平の心理状態を象徴している。「夕闇のなか」という表現は、彼の心の闇や不安を映し出しているようだ。作者は自然の描写を通して、登場人物の心情を巧みに表現している。
また、大人と子どもの世界の違いについても考えさせられた。土工たちにとっては当たり前の「向こう泊り」という概念が、良平には理解できない現実だった。大人の世界には、子どもには分からないルールや常識がある。この作品は、そんな境界線を越える体験を描いている。
最後に、大人になった良平が過去の体験を思い出す場面が印象的だ。出版社で働きながらも、「全然何の理由もないのに」あの日の体験を思い出すという描写から、幼い頃の強烈な体験がその後の人生にずっと影響を与え続けることが分かる。「生活に疲れた良平の前には、今でも薄暗い藪や坂のある路が一筋、細々と断続している」という一文には、人生における試練や困難が、あの日の恐怖の延長線上にあることが暗示されている。
私たちは皆、良平のように子どもから大人へと成長していく。その過程で、恐怖や不安と向き合い、それを乗り越える体験をする。『トロッコ』は、そんな普遍的な成長の物語を、一人の少年の一日の出来事として凝縮して描いている。短い作品だが、人間の成長や人生における試練について、深く考えさせてくれる作品だと思う。
『トロッコ』はどんな人向けの小説か
『トロッコ』は様々な年齢層や興味を持つ人たちに響く作品ですが、特に以下のような方々におすすめです。
- 成長期にある中高生や若者
- 人生の転機を迎えている人
- 子どもの心理や成長に興味がある人
- 日常の中の小さな体験に意味を見出したい人
- 日本文学や芥川龍之介の作品に興味がある人
- 短時間で読める質の高い文学作品を探している人
特に、成長期の若者にとっては、自分自身の経験と重ね合わせやすい内容となっています。
大人の読者にとっても、忘れかけていた子ども時代の感覚を思い出させ、日常生活の中で忘れがちな感性を呼び覚ましてくれる作品ですよ。
『トロッコ』に類似した内容の小説3選
『トロッコ』を楽しめた方は、以下の作品も気に入るかもしれません。
似たテーマや雰囲気を持つ作品を3つ紹介します。
夏目漱石『坊っちゃん』
夏目漱石の『坊っちゃん』は、若者が大人の世界に触れる過程を描いている点で『トロッコ』と共通しています。
主人公の「坊っちゃん」は純粋で正義感の強い若者で、教師として赴任した松山で様々な人間関係や社会の複雑さに直面します。
『トロッコ』の良平と同様に、主人公が社会の現実と向き合い成長していく過程が描かれています。

森鷗外『舞姫』
森鷗外の『舞姫』は、主人公が異国での生活を通じて自己のアイデンティティや愛の葛藤を経験する物語です。
若き日の葛藤や成長の過程、そして大人の現実との対峙という点で『トロッコ』に通じるものがあります。
両作品とも、主人公が人生の転機となる体験を通して成長する様子が描かれています。

太宰治『走れメロス』
太宰治の『走れメロス』は、友情や信義をテーマにした短編小説です。
主人公が友情のために試練を乗り越えようとする姿が描かれ、『トロッコ』と同様に純粋な心と現実の厳しさとの対比が見られます。
両作品とも、困難に立ち向かう人間の強さや純粋さを描いている点で共通しています。

振り返り
芥川龍之介の『トロッコ』は、わずか4,488文字の短編小説ながら、人間の成長や人生における試練について深い洞察を与えてくれる作品です。
8歳の少年・良平のトロッコへの憧れから始まり、大人の世界との出会い、そして恐怖との対峙を通じた成長の物語は、私たち一人ひとりの人生にも重なる普遍的なテーマを含んでいます。
読書感想文を書く際には、少年の心理的成長と変化、情景描写の象徴性、大人と子どもの世界の対比という3つのポイントに注目すると、より深みのある感想文が書けるでしょう。
この記事を参考に『トロッコ』を読み、自分なりの解釈や感想を見つけ出してみてください。
短い時間で読める作品ですが、その奥深さは何度読んでも新しい発見があるはずですよ。
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